TATSUYA HORIKAWA
July 2, 2026·Marketing·4 min read

CPAではなくCACで会話する — 店舗ビジネスの広告費の考え方

「CPA 3,000円は高いですか?」という質問には誰も答えられない。答えられるのは「1人の客を獲るのにいくらまで払えるか」=許容CACを決めたときだけ。店舗ビジネスの広告費の基準線の引き方。

CPAではなくCACで会話する — 店舗ビジネスの広告費の考え方

店舗ビジネスの経営者から、広告についてよく受ける質問がある。

「CPA 3,000円って、高いんですか?」

この質問には、誰も答えられない。私も答えられない。 CPAの高い・安いは、CPA単体では絶対に判断できないからだ。

なのに広告の運用レポートは、CPAを主役に据えて毎月届く。 そして経営者は「先月よりCPAが上がった/下がった」で一喜一憂する。 この会話の構造自体が、店舗ビジネスの広告を迷子にしていると思っている。

CPAとCACは何が違うのか

まず言葉の整理から。

  • CPA(Cost Per Acquisition / Action):広告の管理画面上の「成果」1件あたりの広告費。 成果の定義は問い合わせ、予約、資料請求など、媒体側で計測できる行動
  • CAC(Customer Acquisition Cost):実際に客になった1人を獲得するのにかかった費用

この2つの間には、必ず「歩留まり」が挟まる。 問い合わせ100件のうち、実際に来店するのは何件か。来店のうち、成約するのは何件か。

例えば、問い合わせCPAが3,000円でも、問い合わせから成約までの歩留まりが30%なら、

CAC = 3,000円 ÷ 30% = 10,000円

客1人の獲得に、実際には1万円かかっている。 広告レポートに載っている3,000円という数字だけを見ていると、 この1万円という本当のコストが視界から消える。

「高いか安いか」はLTVが決める

では CAC 10,000円は高いのか。これもまだ答えられない。 比較対象になるのはLTV(顧客生涯価値)——その客が生涯でいくら使ってくれるか、だ。

  • 客単価 8,000円 × 月1回 × 平均継続18ヶ月 → LTV = 144,000円
  • このビジネスで CAC 10,000円なら、獲得費用は生涯売上の7%。全く問題ない
  • 逆に、単発利用が中心でLTVが12,000円のビジネスなら、CAC 10,000円はほぼ利益ゼロ

同じCPA 3,000円でも、ビジネスモデルによって「激安」にも「即停止レベル」にもなる。 CPAの高い安いを議論する前に、自分のビジネスのLTVを一度計算する必要がある。 厳密でなくていい。客単価 × 来店頻度 × 平均継続期間のざっくり計算で十分に機能する。

基準線としての「許容CAC」を先に決める

LTVが出たら、許容CAC——客1人の獲得に最大いくらまで払えるか——を決める。

よく使われる目安は LTVの1/3。 残り2/3で原価と営業利益をまかなう、という大づかみな配分だ。 粗利率が高いビジネスなら1/2まで攻められるし、薄利なら1/4に抑える。 係数の正解は業種によるが、重要なのは先に線を引いておくことだ。

線が引けると、広告の会話が一変する。

  • 「CPAが上がりましたね」→「で、CACは許容内ですか?」
  • 「クリック単価が高騰して…」→「許容CACを超えていないなら、続けましょう」
  • 「もっと安くなりませんか?」→「許容CACまで余裕があるなら、安くするより量を増やす方が正解です」

特に最後が重要で、許容CACに余裕があるのに広告費を絞るのは、利益の取り逃しだ。 「広告費は安いほど良い」という感覚は、基準線がないことの裏返しにすぎない。

月次レポートに入れるべき3つの数字

広告レポートを受け取る立場なら、運用者にこの3つを要求するといい。

  • CAC:広告費 ÷ 実際の新規顧客数(管理画面のCVではなく、台帳ベースの顧客数で)
  • 許容CAC:LTVから引いた基準線(一度決めたら毎月同じ線を使う)
  • その差分:あといくら攻められるのか、それとも超過しているのか

CPA・クリック数・表示回数はその下の参考情報でいい。 経営判断に直結する数字を一番上に置く。それだけでレポートは意思決定の道具になる。

まとめ

  • CPAは媒体の中の数字、CACは経営の数字。両者の間には歩留まりが挟まる
  • 高い・安いはLTVとの比較でしか決まらない。ざっくりでいいのでLTVを計算する
  • LTVから許容CACの線を先に引く。以後の広告判断はすべてその線との比較で行う
  • 許容CACに余裕があるなら、広告費を削るのではなく増やすのが正解のことが多い

広告の会話がCPAで止まっているうちは、アクセルもブレーキも感覚で踏んでいる状態だ。 CACと許容CACという2本の線を引くだけで、広告費は「怖い出費」から 「計算できる投資」に変わる。

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